明媚な笑顔

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彼女の月給の倍額

支局経費には彼女のための枠がないことを、あらかじめ伝えてある。
「それならば、やめてもらうほかはない」
 M氏の申し渡しに、エリザベスはこういった。
「いや、違うよ。お金はいらないの。月給がいるの」
 ニューヨークで大学を終え、マンハッタンのアパートに住んでいるエリザベスには、周囲に友人が多い。その手前、彼女には、日本の新聞社に勤めているという“証拠”が必要だったのである。押しかけのただ働きでは、有閑令嬢のお遊びとしか見られないというのであろう。
 エリザベスの要求を入れて、M氏は一日一ドルの報酬を支払うことになった。
 引き継ぎのとき、そうした事情をM氏からきかされていた私だったが、月に三十ドルというのは、いかにも心苦しい。
 支局には専用の車がないから、何かにつけて彼女の車を使う。運転も彼女なら、燃料代も彼女持ちで。
 三十ドルでは、支局のそばにエリザベスが月ぎめで契約しているパーキング場の料金にも満たない。そこで私は、彼女の月給の倍額アップに踏み切った。といっても、たかが六十ドルになるだけの話である。
 この昇給を告げると、彼女は私の頬に接吻を浴びせかけた。からかわれている気がしたが、本心からだったようである。金持ちの気持ちは、なって見ないことには理解がつかない。
 あるいは、大会社の社長が総合雑誌か何かに随想を頼まれて、もらったわずかの原稿料を、大仰に喜んで見せる心理に、彼女の場合も通じるのであろうか。
 エリザベスは、有用なセクレタリーであった。英語に弱い私は、たとえば大統領の演説がテレビ中継されるようなとき、大意を彼女に筆記させる。読めば、いくら私でも理解がつくから、彼女は私にとって、とっさの耳代わりである。それだけでも、大いに助かった。
 唯一の難点を挙げるなら、無断欠勤が多いことであった。
 一日、二日、姿を見せない。どうしているのかと気になるころ、私のデスクの電話が鳴る。
「あ、ホンダさん? 私、私よ。いまコペンハーゲンにいるの」
 結ばれずに終わったのだが、彼女の愛するアメリカ男性が、そのころコペンハーゲンにいた。どうやら、片想いだったらしい。あきらめ切れないエリザベスは、ファースト・クラスを予約しては、コペンハーゲンに飛んで行く。そんなことが、何回か続いた。結局は、無名の日本人カメラマンと結婚して、サンフランシスコの岬に突き出した豪邸に新居を構えることになるのだが。


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