明媚な笑顔

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昼のあいだの工場での作

ルズは、マルティニをひと口すするといった。
「こりゃ甘すぎる」
「ぼくの好みだからな。しかし、お望みなら、きみにはきみの、ぼくにはぼくの好みでマルティニをつくるようにさせることもできるんだ。まだ予備のチューブがどっさりあるからね。すなわち、お気に召すままなのさ」
 マイルズはまたひとくち酒をすすった。「どのくらいで生産できるようになる?」
「そうだな。まあ、あと十年はいじくりたいね」ぼくは、彼が唸りはじめないうちにいい足した。「だがまあ、制限つきの商品は、五年以内に生産を始められるだろうよ」
「そんなばかな! 臨時を大勢やとってやるから、半年以内に生産段階に持っていってくれ」
「そういうだろうと思ったよ! これはぼくのライフ・ワークだぜ。ぼくは、フランクが芸術品になるまでは絶対に手放さない――大きさもいまの三分の一以下にしたいし、トーゼン・チューブ以外のあらゆる部品を交換式にもしたい、そして、あらゆる意味で、|お気に召すまま《フレキシブル》にしたいんだ。猫をじゃらせたり、赤ン坊に湯をつかわせたりするだけじゃなくて、もし買手が特別プログラミングに金を出す気があれば、ピンポンだってやれるようにしたいんだ」そういってぼくはフランクを見やった。彼は物静かにぼくのデスクの埃をはらい、はらい終わると、机の上にあった書類を正確にもとのところへ戻した。「もっとも、彼とピンポンをやってもあまり面白くないな。ぜったいにミスしないからね。いや、それは、不確定選択回路をつけて、たまにはミスもやるようにすることにしよう。そうだ……うん、それがいい。それに、こいつは、すてきな宣伝にもなるじゃないか」
「一年だ、ダン。それ以上一日も長くちゃいかん。ぼくが、ローウィーから誰か連れてきて、スタイルの点できみの手伝いをするように手配しよう」
 ぼくは、ひらきなおった。「マイルズ、きみはいつになったらぼくが技術部門の責任者だってことをおぼえてくれるんだ? ぼくがもうよしといってきみの手に渡したら、その日からフランクはきみの自由だ。しかし、それまでは、口を出さないでくれ」
 マイルズは答えた。「どうも甘いな、このマルティニは」

 ぼくは工場の機械工に手伝わせて、こつこつと仕事を続けた。やがて、フランクは、自動車が三重衝突したような最初のぶざまな恰好をある程度脱し、隣近所の人たちに自慢したくなるような形に、どうやら近づいてきた。その間に、ぼくは操作上の欠点にいろいろと改良を加えた。そして、ピートの背を撫でたり、あるいは喉をピートの気に入るようにさすったりすることさえ教えた。これは、原子力工場で使われている制御装置のどれにも劣らぬ難しい作業だったのである。マイルズは、諦めたのか、わいわいいってぼくをせかすこともなかった。ただ、しばしばやって来ては作業の進行状態を見てゆく。ぼくは、この仕事の大半を夜の時間を利用してやった。ベルと一緒に夕食に外出して、彼女を家に送りとどけると、再び会社に戻り、それから仕事を始めるのだ。そうしては、翌日の昼じゅうほとんど眠っていて、午後かなりおそくなってから会社につき、ベルが揃えてくれる書類をろくに見もせずに署名したり、昼のあいだの工場での作業の進捗状態を監督して、それからまた、夕食にベルと一緒に外出する。ぼくは前ほどは外出しなくなった。なにしろ創造的な仕事は男を山羊のように臭くする。工場で徹夜をしたあとは、ピート以外の誰もぼくの匂いに耐えられないのだ。
 そうしたある日、やはり夕食をベルとともにした晩のことだった。食事をもうほとんどすませたころ、ベルがいいだした。
「これから工場へお戻りになるでしょう?」
「うん。どうして? いけないか?」
「ううん。ただ、マイルズが、会社でわたくしたちに会いたいっていってたから」
「へえ」
「株主総会が開きたいんですって」
「株主総会だって? なんでまた?」
「長くはかからないんでしょう。それに、あなたはこのごろ、会社の事業内容にちっとも注意してないでしょう。マイルズは、会社のほうのしめくくりをつけて、そのほか、何か重要な提案をしたいんですって」
「そりゃ、ぼくは技術一本槍だからね。ぼくがそれ以外会社のためになにをすればいいっていうんだい」
「なにもしなくていいのよ。マイルズは、たいして時間はかからないっていってたわ」
「いったいなんなんだ? ジェイクが、流れ作業を捌《さば》ききれないのか?」
「わたくしは知らないのよ、あなた。マイルズは理由はいわなかったの。コーヒーを飲んでおしまいなさい」
 マイルズは事務所でぼくらを待っていた。ぼくを見ると、まるで一ヵ月も会わなかったようなしかつめらしい握手をした。ぼくはいった。「マイルズ、いったい、この仰々しさはなんのつもりだ?」
 彼はベルをふりむいた。「議事録を出してくれないか?」これだけで、ベルがぼくに、マイルズが今夜のことを話してくれなかったといったのが、嘘だったことはわかったはずなのだ。それなのに、ぼくはそれに思い当たらなかった。


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